家族が残価設定型クレジット(残クレ)の返済途中で亡くなり、「車はいらないし、残ったローンも相続したくない」と考えることがあります。
この場合、車を販売店へ返せば自動的にローンもなくなるとは限りません。
まず確認するのは、契約に死亡時の残債免除特約が付いているかです。
特約がなければ、残クレの債務も相続の対象になります。
そのうえでローンを含めて相続したくないなら、残クレだけではなく、預金や不動産など他の財産も含めた「相続放棄」を検討することになります。
相続放棄を考えている間は、車を勝手に売る・廃車するなどの処分をしないことも重要です。
最初に「死亡時の残債免除特約」がないか確認する
相続放棄や残債精算を考える前に、残クレの契約書を確認してください。
一部の残クレには、契約者が死亡した場合に、車を返却することで残りの支払いが免除される特約があります。
たとえば日産の「ほっとプラス」には、「免許返納+死亡」を対象とする特約があります。
契約者が亡くなり、所定の条件を満たして車両を返却すると、返却後の残債が免除されます。
スズキ「安心60プラン」でも、契約者の死亡は途中解約特約の対象事由です。
三菱の「あんしんプラスα」も死亡を車両返却事由としています。
ただし、こうした特約は通常の残クレへ自動的に付いているとは限りません。
契約時に申し込んでいることや、一定期間の支払いが完了していること、支払いに遅れがないこと、返却車両が条件を満たしていることなどが必要な商品があります。
最初に販売店・信販会社へ、
「契約者が亡くなりました。死亡時に残債を免除する特約は付いていますか」
と確認してください。
特約がなければ残ったローンも相続の対象になる
通常の残クレでは、契約者が亡くなっただけで残債が消えるわけではありません。
相続では、預金や不動産といったプラスの財産だけではなく、借金などの債務も対象になります。
残クレの支払義務も例外ではありません。
ホンダファイナンスは契約者死亡時について、早期一括完済、支払い継続、所有権解除など複数の手続きを用意しています。
トヨタファイナンスも、契約者死亡時に「早期完済」と「支払い継続」の手続きを案内しています。
つまり死亡した瞬間に契約が消滅するのではなく、遺族側で今後の処理を決める必要があります。
車を返せばローンも全部なくなるとは限らない
残クレでは、満期時に車を返却すれば最終回の残価を支払わなくてよい商品があります。
しかしこれは、契約期間を満了して所定の返却条件を満たした場合の仕組みです。
契約途中で契約者が亡くなった場合まで、同じ条件で返却できるとは限りません。
通常契約で中途精算する場合は、
現在の車の査定額
と、
最終回の残価を含む残債
を比べることになります。
たとえば残債が200万円、車の査定額が160万円なら、車を返却・売却しても40万円の不足が残る可能性があります。
反対に査定額が残債を上回るなら、精算後に差額が残る場合があります。
「車はいらないから返す」と「残った借金を引き継がない」は別の問題です。
残債は「残りの月払い」だけではない
残クレの相続で特に注意したいのが残債額です。
たとえば月3万円であと10回なら、
3万円×10回=30万円
だけが残っているように見えます。
しかし残クレでは、最終回に100万円、150万円などの残価が据え置かれていることがあります。
途中で精算する場合は、その残価も含めた金額を確認する必要があります。
遺族側で計算せず、販売店・信販会社へ、
「死亡日時点で全額精算する場合の金額を教えてください」
と確認します。
車検証の所有者が誰かも確認する
次に車検証を確認します。
残クレでは、
所有者:販売店・信販会社
使用者:亡くなった契約者
となっていることがあります。
これは、クレジット完済まで販売店や信販会社が所有権を担保として持つ「所有権留保」です。
この場合、亡くなった人は車検証上の所有者ではありません。
だからといって、遺族が車を自由に販売店へ返したり、他社へ売ったりできるという意味でもありません。
残クレ契約上の債務と、車両をどう精算するかを販売店・信販会社と処理する必要があります。
電子車検証で所有者が分からない場合は、車検証閲覧アプリや自動車検査証記録事項で確認します。
残クレだけ相続放棄することはできない
「車もローンもいらない。ただし預金は相続したい」という選び方はできません。
相続放棄は、特定の借金だけを選んで放棄する制度ではないからです。
裁判所は、相続放棄を「亡くなった人の権利や義務を一切受け継がない手続き」と説明しています。
つまり残クレを相続放棄すれば、
残クレの債務を引き継がない
代わりに、
預金
不動産
有価証券
その他の相続財産
も原則として相続しません。
残クレだけを見て決めるのではなく、亡くなった人の財産と債務を全体で調べて判断する必要があります。
相続放棄は原則3か月以内に家庭裁判所へ申し立てる
相続放棄には期限があります。
原則として、自分のために相続が始まったことを知ったときから3か月以内です。
申立先は、亡くなった人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。
残クレ以外にも借金があるか分からない、不動産の価値が分からないなど、3か月以内に判断材料がそろわない場合は、家庭裁判所へ相続の承認・放棄期間の伸長を申し立てられる場合があります。
「車の査定をしてからゆっくり決めよう」と考えているうちに3か月を過ぎないよう注意してください。
相続放棄を考えているなら車を勝手に売らない
ここは特に重要です。
相続放棄するかまだ決めていない段階で、亡くなった人の遺産を勝手に処分すると、相続を承認したものとして扱われる可能性があります。
裁判所も、遺産の一部を売却した場合には相続を承認したものとみなされ、相続放棄が認められないことがあると案内しています。
したがって、
車を買取店へ売る
廃車手続きをする
相続人名義へ変更する
といった行為は、相続放棄の判断前に自己判断で進めない方がよいでしょう。
残クレ車で車検証上の所有者が販売店・信販会社の場合も、勝手に第三者へ売却はできません。
まずクレジット会社へ契約者死亡の連絡を行い、
「相続放棄を検討しているので、まだ車両の処分や精算には同意していません」
と状況を伝える方法があります。
必要であれば、車を動かす前に弁護士などへ確認します。
相続放棄するなら「車だけ返して終わり」と決めない
車検証上の所有者が販売店・信販会社なら、
「それなら所有者へ返してしまえばいい」
と思うかもしれません。
しかし、車両を返却する行為と、その結果として残債をいくら精算するのかは契約上の処理です。
相続放棄を考えている場合に、遺族が差額精算まで含む契約処理を自分の判断で進めてよいかは、状況によって変わります。
そのため、
販売店から「車を持ってきてください」と言われた
↓
その場で精算書へ署名する
とすぐ進めるのではなく、
相続放棄予定であることを先に伝えてください。
車両の保管・引取りと、債務の承認は分けて扱う必要があります。
相続放棄しないなら車を手放して精算する方法がある
相続全体を確認した結果、相続放棄はせず、残クレも相続する場合は、車を手放して残債を精算することを検討できます。
一般的には、
販売店へ契約者死亡を連絡
↓
早期精算額を確認
↓
車の査定額を確認
↓
残債と車両価値を精算
という流れです。
車両を販売店へ返却して査定額と残債を相殺する方法や、残債を完済して所有権解除したうえで買取業者へ売却する方法などがあります。
ただし途中返却の方法や手数料は契約先によって違います。
死亡したから必ず満期時と同じ「返却」が使えるとは考えないようにします。
車を残して乗り続けたい相続人がいる場合は別
「自分はいらないが、子どもはこの車に乗りたい」という場合もあります。
相続人のうち誰かが車と残クレを引き継ぐ方向で手続きする可能性はあります。
ホンダやトヨタファイナンスは、契約者死亡後に支払いを継続する手続きを案内しています。
ただし、
誰が残債を負担するのか
車検証の名義をどうするのか
信販会社がどの手続きを求めるのか
は契約によって確認が必要です。
「私は相続放棄して、兄だけ車をもらう」といった場合も、相続全体の順位や他の財産への影響があるため、個別に手続きを判断してください。
全員が相続放棄したら車を勝手に処分しない
相続人全員が相続放棄して、結果として相続する人がいなくなる場合もあります。
裁判所には「相続財産清算人」を選任する制度があります。
相続財産清算人は、亡くなった人の債権者への支払いなど、残った相続財産の清算を行います。
そのため、全員が放棄したからといって、最後に車を保管している家族が自由に売却してよいわけではありません。
誰が車を管理・引き渡すのか分からない場合は、家庭裁判所や専門家へ確認します。
連帯保証人になっている人は相続とは別に確認する
残クレ契約で、配偶者などが連帯保証人になっている場合があります。
この場合は注意が必要です。
相続人として残クレ債務を引き継ぐことと、自分自身が保証人として負っている義務は別の問題です。
「相続放棄すれば絶対に何も払わなくてよい」と自己判断せず、自分が契約書上の連帯保証人になっていないか確認してください。
該当する場合は、信販会社へ保証契約の扱いを確認します。
自分の場合はこの順番で確認する
最初に、残クレの契約書を探します。
死亡時の残債免除特約や保険がないか確認してください。
次に、車検証上の所有者と、残価を含む現在の残債を確認します。
その後で、
預金
不動産
ほかのローンや借金
保証債務
なども含め、亡くなった人の財産・債務全体を調べます。
そのうえで相続放棄を検討するなら、車を処分せず、原則3か月以内に家庭裁判所で手続きを進めます。
相続すると決めた場合は、販売店・信販会社と車両返却、早期完済、売却などの方法を比較します。
この順番なら、「特約があったのにローンを払った」「相続放棄するつもりだったのに先に車を売ってしまった」といった行き違いを避けやすくなります。
まとめ
残クレを相続したくない場合、「車はいらないので返却します」と販売店へ伝えるだけでは解決しないことがあります。
まず確認するのは、死亡時の残債免除特約です。
特約が使える契約なら、車両返却によって残りの支払いが免除される場合があります。
通常契約であれば、残クレの債務も相続の対象です。
その債務を引き継ぎたくないなら、残クレだけではなく、亡くなった人の財産・債務全体について相続放棄するかを判断します。
相続放棄は原則3か月以内です。
そして放棄を検討している間は、車を勝手に売却・廃車・名義変更しないことが重要です。
つまり、
死亡時免除特約を確認
↓
車の所有者と残債を確認
↓
相続財産・債務全体を確認
↓
相続放棄するか判断
↓
その後に車の返却・精算方法を決める
という順番で進めてください。
出典
裁判所|相続の放棄の申述
裁判所|相続・遺産分割
裁判所|裁判手続 家事事件Q&A
裁判所|相続財産清算人の選任
名古屋家庭裁判所|相続放棄の手続に関するQ&A
ホンダファイナンス|契約者が亡くなった場合の手続きが知りたい。
トヨタファイナンス|自動車クレジット契約者が亡くなった場合、どのような手続きが必要ですか?
トヨタファイナンス|所有権留保とはなんですか?
スズキファイナンス|途中解約特約について
日産フィナンシャルサービス|免許返納型残債免除特約付き残価設定型クレジット「ほっとプラス」
三菱自動車ファイナンス|あんしんプラスα
一般社団法人日本自動車購入協会|残価設定型クレジット返済中に契約者が亡くなった場合の残債
